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止水工法(遊離石灰、湧水)

 鉄筋コンクリート構造物は、耐火性・耐久性・耐震性・気密性などに優れた特性を持っています。しかし、欠点もいくつか見られ、その中でもひび割れと水に関するものは大きな問題であり、このひび割れから水が浸入して鉄筋の腐食を促進し、コンクリート構造物の耐久性低下の原因や雨水の浸入などの不都合を生ずるとともに、美観なども著しく損ねており、コンクリート構造物の最大の欠点となります。また、継ぎ目のないコンクリート構造物は現実にはあり得ず、使用目的に合わせて個々に打ち込まれたコンクリートが色々なタイプの継ぎ目で継ぎ合わされているのが普通です。この継ぎ目からの漏水は、鉄筋に損傷を与えたり、少量の漏れであっても、電気系統に影響を与える場合があり、多量の漏れならポンプで汲み出すために多大なコストがかかることも多くみられます。

エフロレッセンス

自動車専用道路の側壁に発生したエフロレッセンス
 エフロレッセンスは、それが発生することで硬化体の物性が低下することはありませんが、美観が損なわれることから特に問題となるものです。
 
 エフロレッセンスの成分は、発生までの材齢、対象物、環境条件、使用した添加剤等で異なりますが、セメント硬化体中に存在する可溶性成分が表面に析出する場合と、外部からの浸透水の中に溶解していた成分が、セメント硬化体中を通ってそのまま、あるいはセメント硬化体中の成分との反応生成物として表面に析出する場合の二つに大別されます。
 
 前者には、セメント中の遊離石灰(CaO)が水と反応して生じたCa(OH)2、あるいはセメントの主要鉱物である珪酸カルシウムが水和反応して生じたCa(OH)2の他に、Na2SO4、K2SO4などのアルカリ塩、あるいはセメントの凝結調節剤としての石こう(CaSO4)が考えられます。
 
 後者には、大気中の酸性成分SO2、CO2が雨水に溶解した酸性水の浸透により、次式の示すような反応による石こう、炭酸カルシウムの生成が考えられます。
 
 前述したとおり、エフロレッセンスは水の移動と関係が深く、水の移動が容易であればあるほどエフロレッセンスは発生し易いと言えます。具体的には、セメント硬化体表面における水分の蒸発が行われることがその多量発生の要因であり、①水(内部の保持水、外部からの補充水)が多い、②緻密ではない、③水の蒸発が盛んである、④十分な強度が発現していない、といった状態にあることであり、その好条件としては、①低温、②日陰、③多湿、④適当な風、⑤若材齢、⑥高水セメント比、などが挙げられます。
 
 エフロレッセンスの除去方法としては、エフロレッセンスの成分のうち、可溶性のアルカリ金属塩類や石こうなどは、水洗により容易に除去できるので特に問題はありません。しかし、セメント硬化体表面に硬く付着した炭酸カルシウムの除去は、必ずしも容易ではなく、ワイヤブラシや紙やすりで削り落とすか、不可能な場合には、硬化体表面を十分に湿潤させた後、3%程度のシュウ酸や塩酸で溶解後、さらに十分水洗することにより除去できるものです。この場合、セメント硬化体のキャピラリー組織の中に、あまり深く酸が浸入しないように注意しなくてはなりません。
 
 セメントは、本来可溶性成分を含有するものであるから、いかなる条件においてもエフロレッセンスを発生しないような絶対的防止方法は難しく、エフロレッセンスの防止方法の基本的な考え方は、エフロレッセンスが発生し易い状況と、逆の状況を作り出すことです。つまり、水の移動をなくすか、最小限に抑えることが大切であり、①硬化体の組織の緻密化、②急硬性の付与、③防水性、撥水性の付与、④保水性の付与、⑤外部からの水の浸入防止や、水の移動とは別に、⑥原因成分の不溶化も、エフロレッセンス防止に有効な策でしょう。
 

漏水

下水処理場の隔壁のクラックからの漏水
 鉄筋コンクリート構造物のひび割れや継ぎ目の箇所に水が存在すると、水量、水圧、水みちの断面積により漏水量は異なりますが、水の浸入により、鉄筋の腐食が促進され、耐久性の低下を引き起こすばかりでなく、美観も損ねることにもなります。
 
 漏水対策の一環とした補修工事は、多大な経費が掛かるばかりでなく、仕上げ、外観を保持しなければならない難しい補修であるため、思い切った補修が出来ない場合も多くあります。また、原因究明が不十分だったために、修繕に的確さを欠いたり、修繕の繰返しで外観を著しく損ねたり、信頼をなくしてしまう例もあります。
 
 漏水診断では、コンクリート構造物の漏水を確認した後、漏水の経路を特定しなければなりません。また、欠陥の箇所が確認されたらまずその原因を考えると共に、漏水の箇所が動きのある部分であるかどうかを、確かめなければなりません。水みちは、色々な荷重だけでなく、温度の影響も受けるため、補修材料を選択する場合は、これらのことも考慮に入れる必要があります。もう一つ考慮すべき重要なことは、実際の水みちは見掛けより広がっている可能性があることです。水が最も流れやすい最短ルートでしか目につかないことが多くあり、その部分だけを止水しても、修理していないひび割れ箇所から再び漏水する場合が多いことに注意する必要があります。
 
 止水工法
 
 止水工法とは、ひび割れや継ぎ目からの漏水現象を止め、コンクリート中の鋼材の錆の成長を抑制する補修工法です。ひび割れが0.1mmより小さい場合は、通気・通水の心配はほとんどなく、外的条件さえなければ、これらの細いひび割れは自癒作用により長時間のうちに塞がってしまうのが一般的です。しかし、ひび割れ幅が0.2mm以上になると、通気・漏水し始めると言われています。このようなひび割れは、すみやかに密閉し、コンクリート内部と外部の通気・透水を遮断し、錆の発生・成長を防止しなければ、コンクリート構造物としての耐力を極度に減少してしまうことになります。
 
 適切な補修材料を選定する際、①ひび割れが貫通しているか否か、②ひび割れ幅の大きさや長さ、(構造的耐力向上の必要性)、④仕上げや保護材料の有無、⑤漏水・湧水・湿気の有無、⑥水圧の有無、⑦ひび割れ内部の塵埃・汚垢・油脂分固着の程度、⑧施工場所の気象・環境条件などについて調査・検討しなければならりません。また、補修方法も、①ひび割れや継ぎ目の表面をシールする方法、②ひび割れや継ぎ目の内部まで充填・注入補修する方法、③ひび割れや継ぎ目を交差させてアンカーする方法などに、大別されます。
 
 ①表面シール工法
 
 表面シール工法は、ひび割れ幅が小さく(約0.3mm以下)、充填・注入が困難な場合と、ひび割れの成長が完全に止まっている場合に適用します。表面のひび割れを中心に、幅約100mmにワイヤブラシ、又はグラインダ、サンダーを掛け、丹念に水洗い清掃し、ポリマーセメントペースト・モルタルをコテ又はヘラを使ってこすりつけるようにして幅約10mmに塗り付ける方法で、ポリマーの種類として、可境性・接着性・防水性のある合成ゴムラテックス(SBR、NBR、CR)などが使われます。しかし実際には、にじみ程度の場合以外は、この工法ではあまり効果が期待できません。
表面シール工法の一例
 ②充填工法
 
 この補修法で対象となるひび割れ幅は、0.2~2.0mm程度の貫通ひび割れの場合が多く、貫通した両面ともシールして充填・注入する必要がありますが、通常の場合片面からの施工しか出来ないものがほとんどと思います。ここでは片面施工の条件で考えていきたいと思います。充填用溝(コンクリート部分をはつり取る形状)は、V字形とU字形が考えられます。サイズは、おおよそひび割れ幅の10(0.2mm幅の場合)~5(2.0mm幅の場合)倍を一辺とする二等辺三角形とし、弾性エポキシ樹脂系を充填する場合はV字形でもいいですが、モルタル系の場合は、V字形は剥離して脱落し易いのでU字形が剥落防止対策においては、多少有利になります。
 
 V字形又はU字形にコンクリートをはつり、はつりによって生じた微粉、塵填や異物をブラシで除去清掃した後、接着性を高めるため、プライマーとしてエポキシ樹脂を塗布し、パテ状弾性エポキシ樹脂を揉み込むようにして充填します。モルタル系の場合は二層構造として、一層目に速硬性のあるものを、二層目に無収縮タイプのものを使用すれば効果が期待できます。いずれにしても接着性を高めるため、適時プライマーを使用すれば効果的です。
 
 
③注入工法
 この工法でも対象となるひび割れ幅は②の充填工法と変わりはありませんが、コンクリートをはつり取る形状は、V字型の方が、効果が期待できます。
 V字形又はU字形にコンクリートをはつり、はつりによって生じた微粉、塵填や異物をブラシで除去清掃した後、速硬性のあるモルタルで薬液が充填されるホースを埋設していきます。この時、薬液注入用のホースも1.0m間隔程度で取付けていきます。モルタルが硬化した後、注入用ホースから薬液を注入しますが、もし勾配があるなら上流側のホースから順次注入します。注入が完了したホースは、折曲げ結び薬液が漏出しないようにして、ホースをシールしてあるモルタル部分からの漏れが発生していないか確認しながら、順次注入していきます。
 
 ひび割れ細部にまで行き渡らせるように注入するのが一番ベストですが、急速に注入すると異常に大きな注入圧が加わり、シールしたモルタルが剥離したり注入ホースが抜けたりすることがあるので注意が必要です。
 
 注入がすべて完了し漏水が発生していなければ、注入用ホースを切断し、柔軟性のあるエポキシ樹脂等で仕上げを行います。この工法でも各工程において接着性を高めるためのプライマー処理は、後々の耐久性において効果的です。
 

④導水工法

 この工法は、他の工法と違い純粋な止水とは言えないかもしれません。なぜならば、導水というのは「読んで字のごとく。」、コンクリート表面に出てきた水を止めるのではなく、導く工法なのです。冒頭でも触れましたが、「なにがなんでも水を止めよう。」、とすればその周辺の弱い部分から水は出てきます。「それを少しでも緩和したい。」、そういう発想からの工法であるといえます。対象となるひび割れ幅は②の充填工法と変わりはありませんが、コンクリートをはつり取る形状は、V字型の方が、効果が期待できます。またこの工法は基本的に止水ではなく、水を有孔ホースにて導く方法なので、流末にホースを出してやる必要があり、この点が他の止水工法との決定的な違いでもあります。
 
 V字形又はU字形にコンクリートをはつり、はつりによって生じた微粉、塵填や異物をブラシで除去清掃した後、速硬性のあるモルタルで漏水した水が流れる空間を確保するホースを埋設していきます。モルタル処理(ホースの埋設)が完了した段階で、漏水の有無を確認します。漏水がなければ、柔軟性のあるエポキシ樹脂等で仕上げを行います。この工法でも各工程において接着性を高めるためのプライマー処理は、後々の耐久性において効果的です。
 
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