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アルカリシリカ反応

アルカリ骨材(シリカ)反応

 コンクリートは、連続した微細な空隙をもつ多孔質材料であり、,酸素やイオン、水分などの浸透や移動が行われています。アルカリ骨材反応とは、コンクリートの細孔溶液中における水酸化アルカリ(KOH やNaOH)と、骨材中のアルカリ反応性鉱物との間の化学反応をいいます。これによって出来た、反応生成物(アルカリ・シリカゲル)の生成や吸水に伴う膨張によって、コンクリートにひび割れが生じる現象も含めて、アルカリ骨材反応という場合が多いようです。
 
 アルカリ骨材反応は、アルカリシリカ反応とアルカリ炭酸塩反応とに大別されています。従来から、アルカリシリケート反応と呼ばれていた反応は、アルカリシリカ反応であることが判明しており、現在この名称は用いられていません。アルカリシリカ反応が進行すると、コンクリート構造物にはひび割れ、ゲルの溶出、部材のずれや移動などの劣化現象が現れます。無筋コンクリート構造物では、亀甲状のひび割れが生じ、鉄筋コンクリート構造物では、主筋軸方向にひび割れが生じます。この結果ひび割れが生じても、コンクリート構造物の部材の耐力がただちに低下するわけではないですが、凍害や化学的侵食に対する抵抗力が低下し、コンクリート中の鋼材が腐食する可能性が増大する事になります。
 
 アルカリシリカ反応によるコンクリート中の有害な膨張現象は、
 
 ①ある物量の反応性骨材が存在する。
 
 ②コンクリートの細孔中に十分な水酸化アルカリ溶液が存在する。
 
 ③コンクリートが多湿または湿潤状態に保存されている。
 
 という、3要素が揃って初めて成立する事になります。反応性骨材となる可能性のある、反応性鉱物(骨材)がすべて有害なわけではなく、有害な膨張を示すか否かは、JIS A 1804に規定する、「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(迅速法)」である、モルタルバー試験等による確認が求められます。
 
 コンクリート中のアルカリの主たる供給源はセメントですが、セメント原料の粘土鉱物などからもアルカリ成分がもたらされます。したがって、単位セメント量が多くなりすぎる配合は、アルカリシリカ反応を誘発する危険性が高くなります。このため1992年JIS改訂に際しては、全アルカリ含有率をポルトランドセメントのうち、低アルカリ性については0.6%以下、その他についてはすべて0.75%とする規格値が新たに設定されました。ちなみに、塩化物イオン含有率についても、全ポルトランドセメントに対し0.02%以下の規格値が設けられました。セメント以外のアルカリの供給源としては、海砂に付着した NaCl などの塩化物、硬化後に外部から侵入する塩化物、混和剤などが有ります。また、コンクリート中の水分の移動に伴って、アルカリが濃縮される可能性も指摘されています。
 
 アルカリシリカ反応による膨張には、水分あるいは湿分が必要であり、雨や水分の影響を受けやすい打放し構造物や、内部の水分が乾燥しにくい重厚な構造物に、その損傷が生じやすいという特徴があります。アルカリ骨材反応は、1940年代に外国でその存在が初めて報告されたました。またわが国では1950年代より調査報告されていますが、従前は存在に否定的でした。しかしながら、1980年代に入り、コンクリート構造物の早期劣化が顕在化し、現在はある特定地域の骨材による、アルカリシリカ反応の発生が確認されています。
 
 骨材の品質の良否は、コンクリートの生成に大きく関与する問題です。わが国の骨材事情は、天然資源に乏しい事情を背景にしながらも、数字のうえでは需給バランスを保ってきましたが、近年その実情は厳しさを増しています。アルカリ骨材反応の防止も含めて、良質のコンクリートをつくるためには、良質堅硬な骨材を使用することが基本的原則です。しかしながら、近年の骨材の供給事情は必ずしもそれを許さない状況にあり、例えば当初は河川の中流域で採取されていた川砂が、次第に下流域に移り,やがて河口で採取される様になります。実質的には海砂であるにもかかわらず、「○○川産」の川砂の呼称で取り扱われ、詐称しつづけた事例も有ります。これは,昭和20~30年代に「○○川産川砂」として、それぞれの地方において権威と信用をもった、いわゆる当地の「純正銘柄」的資源であったのが、枯渇して前記の苦しいブランド維持に走った結果です。骨材の生成あるいは生産過程を考えると、骨材としての品質の優位性は一般的には以下の順序によると考えらます。
 
 ①現河川によって生成された骨材
 
 ②地質時代の河川によって生成された陸および山の骨材、ならびに堆積岩系の砂岩、粘板岩等の骨材
 
 ③火成岩系の安山岩,玄武岩等の骨材
 
 このうち、①は風化作用により地山から剥離された原石が、河川を流下する際に自然の改質作用を受けて生成された、最も品質のすぐれた骨材といえます。②も地質時代に①と同様の経過により生成されたものですが、後の二次風化作用により、①に比較して品質低下の傾向にあります。③は高熱溶岩の冷却により生成されたもので、徐冷固化した岩石は組成鉱物も安定で、骨材として良好では有りますが、中には非結晶質で不安定な急冷部分を含むと、アルカリシリカ反応を起こす原因となる場合が有ります。したがって、骨材資源の供給の推移により、②および③の骨材の増加はやむを得ない傾向にあり、骨材の採取や生産に十分な配慮を怠れば、骨材の品質低下は避けられない状況に有ります。
 
 事実、全国生コンクリート工業組合連合会の、「骨材種類別使用比率」の調査によれば、1987年3月度と1992年3月度の粗骨材および細骨材で、全国的にも川砂利、川砂の供給が減少し、陸砂利、砕石、陸砂、海砂の比率が高まっています。この事は、わが国の骨材供給事情が逼迫している事を、端的に表わしたものと言えるでしょう。こうした骨材供給事情の変化は、コンクリートの品質にも影響を与えることが十分に予想され、コンクリート構造物の今後のメインテナンスにあたっても、細かな事前調査や破壊検査の実施、寿命診断などの現実的問題に対する迅速な解決が、求められるでしょう。計画的、かつ効率的なメンテナンスを確立するうえにおいて、骨材の供給に関する問題は、今後ますます深刻さを増すことが懸念されています。
 
 以上発生原理と現状を説明しましたが、簡潔にまとめると、アルカリシリカ反応(ASR)とは、セメントに含有されるアルカリに由来する水酸化アルカリ(NaOH および KOH)とある種のシリカ鉱物を含有する骨材が反応して、コンクリートに異常な膨張が生じ、さらにそれに伴ってひび割れが発生する現象です。
 
 細孔溶液中の水酸化アルカリと反応して膨張を生じる骨材として、ある種の炭酸塩岩を含有するものも有り、アルカリ炭酸塩岩反応と呼ばれていますが、わが国で被害が主に報告されているのは、アルカリシリカ反応と呼ばれているものです。岩石中のシリカ鉱物で水酸化アルカリを含む水溶液と反応するものは、無定形またはガラス質(オパール、クリストバライト、トリディマイト、火山ガラス等)か、結晶質(石英)であっても、微細な結晶粒やひずんだ結晶格子を持つものです。
 
 アルカリシリカ反応によるコンクリートの膨張過程は、膨張状態Ⅰa(潜伏期)、膨張状態Ⅰb(進展期)、膨張状態Ⅱ(収束期)、膨張状態Ⅲ(終了期)の4段階に区別され、それぞれの区別は表-1のように特徴付けることが出来ます。また構造物の劣化過程は、表-2のように区分されます。
表-1.コンクリート膨張過程の区分
表-2.各劣化過程の区分
 ①骨材中に含まれる反応性シリカ鉱物と、コンクリート中の水酸化アルカリを主成分とする水溶液との化学反応によって、アルカリシリカゲルが生成される。
 
 ②アルカリシリカゲルが骨材周囲より水を吸収し、まず骨材粒子が膨張する。
 
 ③反応性骨材粒子の膨張によって内部応力が発生し、骨材粒子内部にひび割れが発生するだけでなく、それらの周囲のセメントペーストも破壊する。
 
 ④さらに反応が進行すると、微視的なひび割れが進展して、構造物の表面に巨視的なひび割れが現われる。
 
 ⑤表面部分と内部では温度および湿度差に起因する膨張量の差、鋼材や外部より受ける拘束によってコンクリートに発生する応力、あるいは局部的なASRの進行度合が異なるために生じる、部材間の変形差に起因する応力によっても、ひび割れが発生する。
 
 また、凍結防止剤として多く使用される岩塩(NaCl)は、アルカリシリカ反応を促進する事が知られています。
 
 アルカリシリカ反応によって劣化した構造物の外観変状とそれに対応する標準的な性能低下は、それぞれ表-3、4のようにまとめられます。
表-3.構造物の外観上の段階と劣化の状態
表-4.構造物の外観上の段階と標準的な性能低下
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