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ひび割れ

コンクリートのひび割れ

一般的、に硬化したコンクリート又はモルタルに生じた割れ目のことを「ひび割れ」、「クラック」、「亀裂」といいます。
 
 コンクリート構造物に発生するひび割れは、鉄筋の腐食、水密性や気密性などの低下、変形や美観の低下などの原因にもなります。
 
 ひび割れの発生メカニズムは複雑で、その多くは複数の原因により発生している場合が多いようです。また、複数の原因の中からひび割れの主原因を特定するのは、かなり難しい問題では有ります。しかしこの主原因を特定しなければ、補修の必要性の有無や適切な補修方法を検討することが出来ないので、過去のデーター等と比較検討し、発生原因を推定しなければなりません。
海洋構造物の橋脚に発生した錆び汁を伴うひび割れ。
土木学会の「コンクリート標準示方書」では、許容ひび割れ幅は、構造物の使用目的、環境条件、部材の条件などを考慮して定めることを原則としています。
 
 鋼材の腐食に対する許容ひび割れ幅は、鋼材の腐食に大きな影響を及ぼす部材表面の許容ひび割れ幅が、被り厚さによって変化することを考慮し、環境条件と鋼材の種類に応じて、被り厚さ(mm)の0.0035~0.005倍としています。
 
 水密性に対する許容ひび割れ幅は、構造物の使用条件及び作用荷重特性などを考慮し、要求される水密性の程度と卓越する作用断面力に応じて、0.1~0.2mmとしています。
 
 ひび割れ発生の原因とはどういうものか
 
 1.初期ひび割れ(コンクリート硬化前)
 
 初期ひび割れとは、凝結硬化過程の比較的早期に発生するひび割れで、硬化前のひび割れともいいます。初期ひび割れは、その原因によって、沈みひび割れ、初期乾燥ひび割れ(プラスティック収縮ひび割れ)、型枠・支保工の移動によるひび割れ、振動等によるひび割れ、その他のひび割れ等が有ります。
 
 ①沈みひび割れ
 
 単位水量の大きいコンクリートは、ブリーディングによる水の上昇のために、コンクリートが沈下する傾向が有ります。このため、コンクリート上面近傍に鉄筋がある場合などには、コンクリートの沈下が鉄筋で拘束されるために、打設後2~3時間後に、鉄筋に沿ったひび割れを生じることが有ります。
 
 また、壁や柱と梁やスラブの接合部など、打設高さが変化している部分を一度に打設すると、コンクリートの沈下量が打設高さに比例して大きくなるので、入隅部分や断面急変部などにひび割れを生じさせやすくなります。
 
 ②プラスティック収縮ひび割れ
 
 コンクリート打設上面からの水分の蒸発速度が、ブリーディングによる上面への水分の供給速度よりも大きい場合には、表層部のコンクリート中の水分が急激に失われるためにひび割れが生じます。
 
 また、打設直後のコンクリート上面が日射にさらされる場合、通風などによる水分の蒸発が激しい場合、気温の高い時期、湿度の低い場合などに、プラスティック収縮ひび割れを生じやすくなります。
 
 ③型枠・支保工の移動によるひび割れ
 
 型枠からの漏水やモルタルの漏れがある場合には、沈下が原因となってひび割れを生じることが有ります。またコンクリートの凝結開始後、側圧による型枠の変形、支保工の不同沈下があるとひび割れを生じさせることになります。従って、型枠の締付け金具、支保工の不備等がないように留意し、これらの変形が出来るだけ少なくなるように組立てることが必要です。
 
 ④加重や振動の影響
 
 打設後のコンクリートの凝結が進行している途中で、施工加重や振動などが作用するとひび割れを生じさせやすくなります。また、凝結硬化過程の鉄筋が振動を受けると、著しく付着強度が低下するともいわれています。
 
 以上のように、初期ひび割れはこれといって進展しないものが多いのですが、外観上好ましいものではなく、時間が経過してから欠陥を誘発する可能性も有ります。コンクリートの打込み上面に発生するひび割れ、毛状のものから幅が2~3㎜に達するものまで有ります。このひび割れは、硬化後のコンクリート中の鉄筋腐食の原因となりやすく、特に寒冷地においては、ひび割れを通して侵入した水分が凍結融解作用を引き起こすことが有るので、注意をする必要が有ります。
 
 2.硬化後ひび割れ(コンクリート硬化後)
 
 コンクリートが硬化して構造物の供用が開始されると、供用中の加重条件や環境条件によって、コンクリートに引張張力が作用し、ひび割れが発生することが有ります。通常の鉄筋コンクリート構造物では、引張応力を無視した設計を行うため、コンクリートにひび割れが発生したからといって、構造物の性能が急激に低下するわけでは有りません。しかし、腐食環境にさらされる構造物では鋼材腐食に対する耐久性が大幅に低下することが有ります。したがって、発生したひび割れのパターンやその進展状況の確認は、構造物の維持管理において重要で有るといえます。
 
 ①鉄筋の発錆によるもの
 
 コンクリート中の水和物が空気中の炭酸ガスと反応し、コンクリートのアルカリ性が低下(中性化)し、炭酸化の過程で収縮傾向になります。中性化が鉄筋位置まで達するとアルカリによる鉄筋保護の効果が薄れ、水分と炭酸ガスによって鉄筋は腐食します。特に炭酸による鉄の腐食は、炭酸カルシウムが存在するので錆は急速に促進され、鉄筋が錆びると体積が膨張し、かぶりコンクリートを押し上げ、鉄筋に沿ったひび割れが発生します。いったんひび割れが発生するとそこから水が侵入したり、鉄筋付近のコンクリートの中性化が進むので、鉄筋のさびがさらに促進され、かぶりコンクリートの剥落や錆汁によるコンクリートの変色の原因になります。
 
 ②凍結融解によるもの
 
 寒冷地においては、コンクリートの内包水分が夜間に凍結して膨張圧を生じ、この凍結が日中の日射で融解する繰返し作用(凍結融解作用)を受けることになります。この凍結融解作用により内部応力により、ひび割れが発生します。 するとコンクリート内部に水分が浸透しやすくなるため、次の凍結によりさらに大きな膨張圧を生じ、ひび割れの開き幅の拡大や損傷の原因となることが多いのです。
 
 ③アルカリ骨材反応によるもの
 
 アルカリ含有量の多いセメントを使用した場合、水和によって生じたアルカリ成分とある種の骨材中に含まれるシリカ鉱物とが化学反応を起こし、アルカリシリケートを生成します。これがコンクリート中の水分を吸収して膨張し、ひび割れが発生します。アルカリと反応性のある鉱物としては、火山ガラス、クリストバライト、トリジマイト、オパール等ありますが、これらの鉱物すべてが有害な膨張を示すことではなく、場合によっては、非反応性骨材と混合した場合により大きな膨張を示すことも有り、骨材の反応性試験による品質の確認が必要です。アルカリ骨材反応には、アルカリシリカ反応、アルカリ炭酸塩反応、アルカリシリケート反応が有ります。
 
 以上、硬化後ひび割れの代表的な発生原因をあげましたが、その影響としては以下のようなものが有ります。
 
 安全性能に対する影響
 
 荷重の作用・強制変位・環境温度や湿度の変化によって発生したひび割れは、通常の鉄筋コンクリート構造物においては、発生したひび割れ幅が過大でない限り、構造物の安全性能に大きな影響を及ぼすことは少ないといわれています。しかし、ひび割れ幅が過大となると、内部鋼材の降伏やコクリートのせん断伝達耐力の低下が懸念されます。また、地震荷重によりせん断ひび割れが交差して、コンクリートの一部が抜け出すと、柱部材などにおいては耐荷力が大幅に低下することになります。床版においては、過大な活荷重が繰返し載荷されると、ひび割れ面での擦磨き作用が起こり、ひび割れ面でのせん断伝達耐力が大きく低下し、床版が抜け落ちることが有ります。このようなひび割れが発生した部材に対しては、ひび割れに対する補修だけでは不十分であり、補強を検討することも必要となります。また、凍結融解作用の繰返し、アルカリ骨材反応、火災・表面加熱、酸・塩類の化学的作用を受けたコンクリートでは、ひび割れだけでなくコンクリート自体の力学特性の低下も大きい場合が有るため、ひび割れの補修だけでなく、コンクリート自体の変質状態を把握した対策を検討する必要が有ります。また、塩害や中性化などによって内部鋼材の腐食によるひび割れでは、腐食進行を止めるための補修だけでなく、引張鋼材の断面減少に伴う耐荷力の低下を考慮に入れた補強も、併せて検討する必要が有ります。
 
 使用性能に対する影響
 
 ひび割れが多数発生したコンクリート部材では、ひび割れにより剛性が低下します。また、ひび割れの原因によってはコンクリート自体の力学特性の劣化や、鋼材腐食の進行によっても、コンクリート部材の剛性は低下することになります。剛性が低下してコンクリート部材では、荷重に対する変形量が大きくなったり、振幅の大きい振動が発生するなどして、構造物の使用性能を低下させることが有ります。使用性能が低下した部材に対する対策は、原因に応じてそのひび割れの進行を抑制すると共に、補強などによって適切なレベルにまで剛性を回復させる必要が有り、水路、地下構造物、海中構造物や水タンクなどでは、ひび割れによって漏水が発生することになるので、この場合には、止水を目的とした補修を行う必要性も出て来ます。
 
 第三者及び美観・景観に対する影響
 
 ひび割れが発生すると、ひび割れによって構造物の美観・景観が損なわれることのなります。ひび割れと同時に発生するエフロレッセンス、鋼材腐食による錆汁、さらには各種の劣化原因に伴うコンクリートの変色も、ひび割れを強調したり構造物の表面を汚し、美観・景観を大幅に低下させます。 美観・景観が低下した構造物は、ひび割れの原因に対する対策を実施すると共に、コンクリート表面の美観を回復させるための対策を、併せて行う必要が有ります。一方、ひび割れがコンクリート内部で連続すると、一部のコンクリートが剥離して浮きや剥落が発生することが有ります。構造物の周辺や下を、人や車両が通行する場合には、コンクリート片の剥落によって重大な事故が発生することも考えられ、このような第三者影響度を低減するためには、ひび割れが連続していないか打音検査などによって確認し、その可能性が予測される場合には、その部分を事前に取り除くか、剥落して人や車両に影響が出ないような対策を行う必要が有ります。
  
 この他にも様々なひび割れ発生の原因及び影響が有りますが、良質の材料、建設時の施工管理及び品質管理の向上、建設後の維持管理の推進などで、ひび割れの発生の頻度や影響は、ある程度押さえることが出来そうです。
 
 以上の事からも、ひび割れの原因を推定することは、その補修・補強を行うにあたって重要な事項です。すなわち、原因を無視した補修を実行した場合、再びひび割れの現象が現れ、再度の補修を行う事態が生じる可能性が有ります。また、構造的に危険な構造物にあって、原因に即した対応を怠った場合、取壊しなどの結果を招き、補修の意義が無意味な物になってしまう事態にもなりかねません。ひび割れの現象の下には、アルカリ骨材反応や塩害、脆性疲労、凍害などの原因の潜んでいることが考えられるのは、先に説明した通りです。各々の要因により劣化が進行する過程で、ひび割れの発生する時期が劣化段階ではどの程度に位置するかを把握することも、正確な補修対策を策定するうえで重要な要素となっています。
      
     
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